量子ビットを測定する
量子ビットにとっての測定の重要性
未知の状態にある量子ビットについての情報は、それを測定することによってのみ得られます。測定の際、量子ビットは2つの値のうちのちょうど一方に収縮します。元の状態はもはや再構成できず、その状態について知り得ることのごく一部しか分かりません。
が未知の状態で、測定結果が である場合、
について確実に言えるのは、 が成り立っていたに違いないということだけです。
に関するそれ以上の情報はもはや得られません。測定の結果として、量子ビットは重ね合わせを不可逆的に失ってしまったからです。
レジスタ内の個々のビットの測定
レジスタ内の個々のビットも測定できることはすでに見ました。この測定は、他の量子ビットの測定結果にも影響を及ぼします。
単一の量子ビットを測定すると、レジスタの状態はどのように変化するのでしょうか。2つの量子ビット と からなるレジスタは、次の状態にあることが分かっています。
ここで および は任意です。
を測定する確率は
ここでいま を測定したとすると、レジスタは 次の状態になります。
このとき、次が成り立ちます。
これはつまり、 と の振幅は比例関係を保ったまま維持されるものの、測定確率の和が再び 1 になるように規格化される、ということです。
計算基底以外の基底での測定
これまでは、可能な測定結果として と のみを示してきました。しかしこの見方は、量子ビットが常に特定の基底に関して測定されるという事実を無視しています。これまで用いてきたのは、いわゆる計算基底 でした。
復習:
次元ベクトル空間の基底とは、次を満たす基底ベクトルの集合 のことです。各基底ベクトルは 次元であり、ベクトルたちは線形独立です(つまり、どのベクトルも他のベクトルの線形結合として書けません)。
すべての基底ベクトルが長さ を持ち、互いに直交する場合、これを正規直交基底と呼びます。
学校で習ったことを思い出すと、2次元ベクトル空間はさまざまな基底を持ち得ます。
したがって、 が の基底であるだけでなく、例えば集合 も基底となります。 も も、これらのベクトルの線形結合として表すことができます。
その求め方は次のとおりです(例: )。
すなわち、 を求めます。
これにより、2つの方程式が得られます。
I)
II)
量子ビットを計算基底(すなわちブロッホ球の z 軸)で
と表す代わりに、2次元ベクトル空間の基底として (x 軸)や (y 軸)を選ぶこともできます。
これらの基底はいずれも、対応するパウリ行列の規格化された固有ベクトルであり、その固有値は と です。これは標準の Z 基底とパウリ Z 行列にも当てはまります。固有値 に対する固有ベクトルは で、 に対しては です。
他の基底では、状態 は次のような表現を持ちます。
ここで
から、 と を計算できます。結果は次のとおりです。
状態 は確率 で測定され、状態 は で測定されます。同様に、状態 は確率 で、状態 は で測定されます。
ここでも次が成り立ちます。
数学的には、ある基底 に関する測定は、ベクトルをその基底の部分空間へ射影することに対応します。
図では、部分空間は座標系の軸にあたります。測定結果 は、ベクトルが部分空間 に射影されたことを意味します。その確率は、
射影されたベクトルの長さに対応します。
測定結果が互いに排他的であることを保証するため、量子系では、2つの基底ベクトル と が互いに直交するような基底が必要です。すなわち です。
そうでなければ、一方の基底ベクトルを測定したときに、確率 でもう一方の基底ベクトルが得られることになってしまい、意味をなしません。
基底として使えるのは有効な量子ビットのベクトルだけであり、その長さは常に なので、量子系のあらゆる基底は正規直交基底です。
測定結果
その帰結として、量子ビットは と に関してだけでなく、別の基底に関しても重ね合わせ状態になり得ます。
測定の際には、測定基底に関する重ね合わせが破壊され、対応する基底状態のいずれかを取ります。つまり、次のことが言えます。
-
量子ビットを測定すると、1ビットの古典情報が得ら れます。
-
量子ビットは測定後の状態を取ります。この状態は、別の基底に関する重ね合わせであり得ます。
-
元の状態が分かっている場合、測定によって量子ビットがどの後続状態にあるかが分かります。これはその後の計算に利用できます。
オブザーバブル
測定のより一般的な描像は、オブザーバブルに関する射影測定によって記述されます。
オブザーバブルとは、系の量子物理的な性質を記述するエルミート演算子です。
射影測定では、オブザーバブル は
と定義されます。ここで は、オブザーバブル の固有値空間への射影です。測定はオブザーバブルの固有値 を与え、系を対応する固有ベクトル に変換します。固有値 を状態 に対して測定する確率は
です。典型的なオブザーバブルはパウリ行列 であり、その固有ベクトルの候補は(、、)、対応する固有値は です。
例えば、 行列は次のように射影から構成できます。
測定結果として が状態 に対して得られる確率を計算したい場合、結果は次のようになります。
また、オブザーバブルを用いて、 状態の測定の期待値を計算することもできます。状態 に対しては
重要: 期待値は、測定確率からではなく、オブザーバブルの固有値から計算されます。
例として、状態 に対する Z 基底での測定の期待値を計算します。
原理的には、任意のエルミート行列をオブザーバブルとして考えることができます。例えば、基底を組み合わせてブロッホ球の ZX 基底で測定したり、非ユニタリ行列を用いてコスト関数に関して状態を評価したりできます(これは講義の後半で扱うハイブリッドアルゴリズムに関係します)。
例えば、状態 を、 に関して測定すると、次の期待値が得られます。